ポピンズ国際乳幼児教育研究所(PIICS)は、保育の質の向上を目指して、2010年より米国ハーバード大学教育大学院の研究グループ「プロジェクト・ゼロ」から指導を受け、2015年より共同研究を行っております。日本とアメリカを月一回オンラインでつなぎ、双方の保育従事者が研究を重ね、その成果を年に一度のシンポジウムにて発表しています。このたび、第17回目となる「ポピンズ国際乳幼児教育学シンポジウム」を、2026年7月11日(土)に開催しましたので、以下に報告いたします。
2026年テーマ「Global Competence 2.0 「守り」から「しなやかな強さ」へー子どもたちのレジリエンスを最大化する教育環境のデザインー」
変化の激しい現代において、子どもたちがグローバルな視野とともに「レジリエンス(しなやかな強さ)」を獲得・発揮できるよう、最先端の乳幼児研究と具体的な実践事例に基づく多角的な学びを国内外の著名大学の教授陣や現場の教師から日本の伝統文化である「金継ぎ」をテーマに発表いたしました。

第一部:基調講演/研究報告
基調講演「愛から行動へ:困難な時代にあってグローバルな能力を備えた子どもたちをどう育てるか(米国と日本での試み)」
ハーバード大学教育大学院 プロジェクト・ゼロ主任研究員 ヴェロニカ・ボイクス・マンシーヤ博士
本基調講演では、ハーバード大学教育大学院プロジェクト・ゼロとポピンズ国際乳幼児教育研究所(PIICS)による共同研究の成果と概念的枠組み「From Love to Action(愛から行動へ)」が発表されました。複雑で変化の激しい現代において、幼少期からグローバル・コンピテンス(世界や人々、自然を愛し理解し、持続可能な社会のために喜びをもって行動する力と姿勢)を育むための理論と実践アプローチが示されました。
畏敬の念や驚きの体験、五感を通じた探究、物事の深いつながりの理解、他者視点の獲得など、「From Love to Action」のフレームワークに基づき、現代における困難に対する主体的な行動を促す思考ルーティン、特に、日本の伝統文化である「金継ぎ」の思想を応用した”変容的修復”のアプローチは、それを乗り越えるための発想の転換として示されました。教育者や大人が協働して子どもたちのレジリエンスと可能性を支える環境づくりの重要性が語られました。

研究報告1(アメリカの小学校)「過去を称える:オオカバマダラの旅から広がる『死者の日』の探究とコミュニティ・オフレンダ」
ワシントンD.C.公立小学校スクール・ウィズイン・スクール 図書司書 キャサリン・フラヴェル先生
本報告では、オオカバマダラ(蝶)の渡りとメキシコの伝統行事「死者の日」を題材とした探究実践が紹介されました。子どもたちはこの活動を通して、異なる文化・環境・コミュニティとの繋がりを深めています。
渡り蝶の生態調査から始まり、「死者の日」に先祖を敬い、祭るオフレンダ(祭壇)の設置へと活動は発展しました。
多様性を尊重して主体的に学ぶ子どもたちの姿は、グローバル・コンピテンスを育む実践的なアプローチとして提示されています。

研究報告2(日本の学童保育施設)
ポピンズエデュケア 学童・児童館統括マネージャー 岡田一紀
ポピンズアフタースクール施設長 柴田景子
本報告では、日本の伝統技法「金継ぎ」の思想を基にした「トランスフォーマティブリペア(変容的修復)」の実践が発表されました。割れた皿の修復ワークショップや対話を通じ、子どもたちが「物」だけでなく「人の心」の傷を受け入れ、修復していく「心の金継ぎ」を獲得していくプロセスが示されました。さらに、失敗や困難の経験を振り返り、次年度の新入生への温かいメッセージへと繋げることで、困難の中に美しさを見出し「愛から行動へ」と繋げる実践的なアプローチが紹介されました。

第二部:パネルディスカッション「子どもたちのレジリエンスを最大化する教育環境のデザイン」
学習院大学文学部教授・東京大学名誉教授 秋田喜代美先生
白梅学園大学学長・東京大学名誉教授 小玉重夫先生
西南学院大学教授 門田理世先生
ヴェロニカ・ボイクス・マンシーヤ博士
㈱ポピンズ代表取締役社長グループCEO 轟麻衣子
本パネルディスカッションでは、第一部で提示された「From Love to Action(愛から行動へ)」の概念を受け、「金継ぎ」をキーワードに、子どもたちのしなやかな力を育む教育環境や大人の関わりについて、国内外の知見を交えた多角的な議論が展開されました。
秋田喜代美先生「金継ぎの思想に学ぶ 保育における匠の繕いの技」
日本の保育に根差す「ものを大切にし、新たな価値を生み出す文化」と金継ぎの思想の共通性に言及され、廃材を活用して居心地の良い居場所(サンクチュアリ)を生み出す実践例が示されました。また試行錯誤を重ねる子ども自身を「匠」として尊重し、モノや人との関係性を紡ぎ直す「愛から行動へ」を育む重要性を語られました。
小玉重夫先生「「金継ぎ」と「サンクチュアリ」ポストヒューマンな子どもの視点から見る民主主義のレジリエンス」
人間中心主義を超えて自然・モノ・AIなどの多様な存在と対等に関わる「ポストヒューマン」の視点が提示されました。失敗が許される心理的安全性の高い場所(サンクチュアリ)を保障すること、そして壊れた関係性を「なかったこと」にせず繋ぎ直す金継ぎの精神が、異質なものを排除しない民主主義とレジリエンスの土台になることが示されました。
門田理世先生「荒らされた畑と子どもたちの金継ぎ」
熊本のこども園における自然体験の実践が報告されました。野生動物に野菜を荒らされた経験から、動物を敵視せず「どう共に生きるか」を子ども自ら探究し、廃材で「かかし(守り神)」を創造したプロセスが紹介され、”壊れた”経験を対話によって新たな価値へ高める保育者の役割が共有されました。
個別の発表を受け、視聴者からの質問を交えたディスカッションが行われ、生命との向き合い方や失敗を寛容に受け入れる環境づくり、多様性の受容についてさらに議論が深められました。
最後に、キーワードセッションが行われ、各先生方に「あなたが今、孫の世代に何か教えるとしたら何を教えますか?」についてキーワードでお答えいただきました。

小玉先生「安心して間違えられる場所」
サンクチュアリ(聖域)とは、正解を追い求める場所ではなく、誰もが安心して失敗でき、間違いを通してお互いに学び合いながら環境を作り上げていく場所です。現代の教育現場で失われがちなこの『安心して間違えられる場』を大切にし、守り育てていくことこそが、未来の世代に向けた重要なメッセージであると語られました。
門田先生「私が、みんなと一緒に大切にしたいことをみつける 私の大切 あなたの大切」
『私の大切』が『あなたの大切』になり、さらには『私たちの大切』へと繋がっていく価値観を共に見出す旅こそが、これからの時代に求められています。対話や修復を通じて新たな価値観を共に創り出し、『何が大切なのか』を一つひとつ確認し合える日々を子どもたちと共に送っていきたいと述べられました。
秋田先生「「好き」と「あきらめない心」を育む」
子ども自身の『好き』ということが原点になり、それを周囲が受け入れる環境が欠かせません。しなやかな強さを持ってあきらめず、人と人、人と世界が繋がり続けていくための覚悟を、次の世代へ渡していきたいと語られました。
ヴェロニカ博士「Deep inquiry and commitment to individual and collective flourishing(深い探求心と、自分自身と周りの人々の健やかな成長を支え続けること)」
多様な問いを立て、物事の本質を掘り下げながら前進していく探求力が不可欠です。すべての人の尊厳を尊び、自分自身だけでなく周りの人々やコミュニティ全体が健やかにいきいきと輝く未来を目指し、行動し続けることの大切さが示されました。
ポピンズ国際乳幼児教育研究所は、今後も国内外の大学や研究機関との連携を強化し、次世代を担う子どもたちの健やかな成長と、未来の社会を豊かにする保育・教育の質の向上に一層貢献してまいります。